「企業」は今後も存続するか?

今日は、「企業」というものが、今後も存続、繁栄していくのか?ということについて書いてみたいとも思います。

我々投資家にとっては、投資対象となる企業がちゃんと存在して、そしてその企業が繁栄することによって、はじめて利益がもたらされます。

ですので、その企業がなくなってしまったり、あってもあまり儲からなくなってしまうと、投資家として「死活問題」です。

ネット上の様々なサービス(プラットフォーム)によって個人と個人が自由につながり、従来の企業の存続が脅かされることが多くなっています。

わかりやすい例で言えば、Uberによってタクシー会社が打撃を受けているような例です。

Uber自体もまた企業であるので、そういう企業に投資すればよいではないか、という考え方もあります。

しかし、長期的な視点で見ると、投資家の立場は以下の理由によって脅かされる可能性が高いと考えています。

  1. 利益の源泉が、多額の投資を必要とする「設備」から、そうではない「知識」に移行している。
  2. 資金調達の手段が多様化し、株式公開に頼る必要が少なくなっている。
  3. ブロックチェーン技術により、「中央の管理者」を必要とせず個人同士を結びつける「市場」ができあがり、「企業」がなくても経済活動が回るようになっていく。

今日ここで書きたいのは、最後の3についてです。

1や2も大事な問題ですが、難しい問題なので、また後日考えてみたいと思います。

3の「中央管理者がいない市場」のわかりやすい例は、一昨年前に暴落してニュースになったビットコインや、それ以外の仮想通貨が上げられます。

これらの仮想通貨はいずれもブロックチェーンの技術を用いています。

ポイントは、仮想通貨自体はもしかしたら「失敗」だったかもしれないけれども、ブロックチェーンの技術の有用性自体が否定されたわけではないと言うことです。

利用する側からみたブロックチェーンの本質は、中央の管理者がいない状態で、見ず知らずの個人同士が公正に取引を行うことができる、ということでしょう。

この技術を使えば、もはや「企業」に頼ることなく、売りたいもの(モノ、スキル、サービス)を持っている個人と、それを買いたい個人が自由につながって、公正に取引をできるようになると言うことです。

で、こういう取引が普及してくると、上に書いたように「もう企業の役割って終わったんじゃないの?」ということになるかもしれないと言うことです。

この疑問について、わかりやすい答えが示された本を読んだので、ご紹介します。

プラットフォームの経済学 機械は人と企業の未来をどう変える?

この本の主題は、原題である”Machine, Platform, Crowd”の方によく示されています。

「AI化」、「プラットフォーム化」、「群衆化」という3つの大きな流れにうまく乗らないと、人も企業も生き残っていけないよ、ということです。

AI化による人間の仕事への影響については、いまさらここで議論するまでもないと思いますが、本書では特に、すでに専門家や経営者の下す判断よりもAIの下す判断の方が優れているといえるようになったと主張されています。

プラットフォーム化については、モノやサービスや情報そのものよりも、それらを顧客に届けるプラットフォーム、たとえばAmazonやFacebookが力を持ってきています。

最後の群衆化の部分が、上の「企業不要」論と絡んできます。私はあまり詳しくありませんが、ブロックチェーンによって個人同士が結びつくサービスの事例がいくつかあげられています。

で、「企業が不要になるか」という疑問への回答ですが、本書では「そうではない。」と結論されています。

本書では、「企業」に対するものを「市場」としています。

従来、企業が市場(つまり個々人の取引)に対して有利である理由は、「検索」、「交渉」、「契約とその監視」などの取引費用を安くすませられることでした。つまり、見込み客や新たな調達先を探したり、弁護士や専門家を雇って交渉や契約をしたり、なんていうのは個人よりも大企業の方が、売り上げあたりの費用は安く済むということです。

そういう費用が新しいネット技術(プラットフォーム)によってどんどん引き下げられ、企業の市場に対する優位性が揺るいでいます。

しかし、それでも企業がなくならない大きな理由の一つとして、「不完備契約理論」なる理論を使って説明されています。

私が理解したなりにざっくり書くと、「市場のルール・契約で、起こり得るすべてのケースについて漏れなく規定されていれば中央管理者なく円滑に取引が行われるものの、現実的にはそのような漏れない完璧なルール・契約を作ることは不可能である。そういう契約からはみ出たケースにおいて、中央管理者つまり企業の存在価値がある」ということです。

契約に定められていないケースにおいて企業が取り得る権利のことを「残余コントロール権」と呼ぶのだそうです。

この権利こそが、企業の価値、というわけです。

上にあげたUberの例で言えば、別にUber抜きでドライバーと乗客が直接契約を結べるようなプラットフォームをブロックチェーンで作ることは可能かもしれません。

しかし、様々なトラブル、不正、事故といったケースについてすべてを網羅した契約を書くことが不可能な以上、ちゃんとすべてを管理するUberの存在意義がある、というわけです。

企業が不可欠な他の理由としては、例えば防衛産業のように国家機密を扱わなければならない場合があるとか、交通やエネルギーと行ったインフラのような公共性が高く安全性も求められるものがある、などがあげられます。

また、製造業にしたって、万が一製品による事故で人身に危害が及べばPL責任を問われます。でも、クラウドファンディングでぱっとお金を集めて製品を作るような小さな企業の製品でそのような事故が起こっても、責任能力がないという問題にも直面します。

いろいろ書きましたが、結局「企業」というものが今度どのように形や役割を変えていくかは、正直分かりません。しかし、投資家にとって大事な問題であることは間違いありませんので、今後もこの話題は注視していきたいと思います。