「PL脳」に侵された日本企業と、ファイナンス思考できる米国企業

私が投資を始めたのは、十数年前です。当時ブームが始まった中国株から手を付けました。

まだ決算書の読み方もよく知らず、「中国株二季報」などの限られた情報だけを見ながら銘柄選びをしていました。(いろんな銘柄に広く目を通せる点で、今でも二季報は良い情報源ですが。)

当時の自分の考え方は、以下のような、非常に稚拙なものでした。

  • (特に中国の)自動車、不動産、医療・医薬など、市場全体が成長している業界へ投資することがよいこと。逆に、成熟しきった業界への投資は魅力がない。
  • 増収増益を続けている企業が良い企業。増収減益や減収増益だと要注意。減収減益になった企業は即売りすべし。赤字企業など論外。
  • 自己資本比率が悪い企業はとにかく危険。逆に無借金な企業は優良企業。
  • 大規模な社債発行をした企業もとにかく危険。

その後、いろいろと痛い目にあったり、投資関連の書籍を読んだり、素人ながらにもPL/BS/CFをある程度読めるようになってからは、上記のような考え方が必ずしも正しくないことが分かってきました。

ただ、そういう間違った考え方が、ひとりの素人投資家である自分だけではなく、日本の多くの企業を経営している人たちにもはびこっていることを紹介した書籍があったのでご紹介します。

ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論

ファイナンスについては先日も別の記事を書きました。

本書では、ファイナンス思考の対極にあるもの、つまり、目先の売り上げや利益だけにとらわれる考え方を「PL脳」と呼んでします。そして、日本の大企業やベンチャー企業の経営者や従業員がいかにこのPL脳に侵されているかについて論じられています。

なお、著者の朝倉祐介さんは、学者とかではなく、ミクシィの代表を務められ、上場以来初の赤字という苦い経験をされた方です。そういう経験に基づいた内容ですので、迫力があります。

PL脳に侵された症状として、以下のような例が挙げられています。

売上至上主義

会社全体としては利益を考えていても、社内の個々の部門での利益を算出することは、固定費をどう割り当てるかなどの問題があり、難しい場合が多いです。そのために、それら個々の部門では利益を度外視して売上を上げることに注力してしまう、というのが一つのパターンのようです。

また、「売り上げはすべてを癒す」といって、つぶれていったダイエーの例も挙げられています。

利益至上主義

四半期ごとの増益を達成するために、将来の成長のために必要なマーケティング費や研究開発費を削ったりする事例が当てはまります。

キャッシュフローの軽視

これは、上の利益至上主義と似ています。

バリューの軽視

事業の将来価値に目を向けず、「目先の増収増益」にとらわれて大規模な投資を無駄にした事例として、シャープの液晶事業の例が挙げられています。

確かに、当時はたから見ているぶんには「液晶テレビなんて、年々競争が激しくなって価格が安くなるだけなのに、あんなに大規模な投資をして大丈夫?」と思ったものです。

しかし、経営判断をする当事者の方にしれ見れば、増収増益が続く中で「(投資を)やめる」とは言いづらい状況だったと書かれています。このあたりが「日本のサラリーマン経営者」の限界といえるかもしれません。

なお、PL脳に侵された「悪い例」だけではなく、リクルート、JT、日立(黒字のハードディスク事業を売却)、サントリー(ジンビームを買収)など、日本企業の中にもファイナンス思考に基づいて素晴らしい判断をした事例もあげられています。

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この本での議論は、あくまで経営側からみたファイナンス(コーポレート・ファイナンス)に関するものです。

しかし、投資家側から見ても、自分が投資しようとしている企業が、事業撤退・売却、事業買収、社債発行などのアクションをとった場合に、それがファイナンス思考に基づいて判断されたものか、「PL脳」によって判断されたものかを考えることは非常に重要だと思います。

最近は米国株の比率を増やしています。

事業の価値を高めるために、ファイナンス思考に基づいて、適切な資金調達を行い、そして調達した資金を企業買収や新規事業投資の形で適切に配分し、そして余った資金は株主にしっかり還元するといったことがちゃんとできるという米国企業のよさが、最近わかってきた気がします。

もちろん、上に書いたように日本企業でもちゃんとファイナンス思考に基づいた経営をしている事例もあります。しかし、終身雇用・年功序列といった文化・習慣の壁や、言語の壁という不利を背負ってまで投資対象にする必要性は、あまり感じません。

しっかりしたワイドモート(経済的な堀)をもった米国株でポートフォリオを構築してしまえば、個人の投資活動として、あとはあまりやることがないのかなと思っています。(年1回の決算チェックと、銘柄関連のニュースのチェックくらいでしょうか。)

「やることがないときには、何もしないこと」と、ウォーレン・バフェットも言っていましたしね。