「伽藍とバザール」というのは、もともとソフトウェア開発の世界で提唱されたコンセプトです。
企業などが大規模なプロジェクトを作って、しっかりした指揮系統のものでソフトウェアを作り上げていくスタイルが「伽藍」(Cathedral、キリスト教の大聖堂の意味)と呼ばれます。
これに対して、Lynuxのように誰もが自由に参加してオープンウェアを作り上げていくスタイルが「バザール」と呼ばれます。
元々はソフトウェアの世界の用語でしたが、仕事のやり方や人生の生き方の例えにも使われるようになりました。橘玲さんの書籍でも取り上げられていますね。
サラリーマンとして企業に永年勤めてきた人が、経済的な自由を得て、リタイアして、「何でも好きに」できるようになったときに、身の回りの環境が「伽藍」の世界から「バザール」の世界へと変わってきます。
この変化にうまく適用できるかどうかが、(経済的にな困難は皆無だとして)その後の人生を幸せに暮らせるかどうか、の分岐点になると考えています。
伽藍、つまり、会社組織の中では、「権限」が人間関係の大きな鍵を握っています。
上司であるあなたの指示に部下が従うのも、逆に部下であるあなたが上司の指示に従うのも、基本的には上司が部下に指示をする権限を持っているからです。
もちろん、個人的な相性や尊敬の度合いによって、権限を伴わないお願いを聞いてくれたり、逆に権限が伴う命令に反抗したり、なんてことも、もちろん現実にはありますが、そういうのはあくまで「例外」であって、基本的には権限にもとづいて人間と人間の関係が形成されます。
上下の関係だけでなく、自分の所属する部門の権限に基づいて、他の部門の人にいろいろと指示をすることもあるでしょう。(総務とか人事とか)
で、何がいいたいかというと、このような伽藍、つまり会社組織の中では、権限さえ伴えば、指示する相手に好かれていようが、いまいが、尊敬されていようが、いまいが、人間関係が成立すると言うことです。
指示する権限さえあれば、(パワハラとかにならない範囲なら)いくら相手に不快な思いやつらい思いをさせても、自分の思い通りに他人を動かすことができます。
人間関係には自由がなく、固定されていますが、その人間関係の中で何を言うかについては比較的自由があります。権限の範囲であれば、相手に不快な思いをさせても、人間関係を維持することができます。
しかし、そのような会社勤めを数十年こなしてきて、資産形成もちゃんとやって、配当と年金だけで金銭的には安心して暮らせるようになって、待ちに待ったリタイア生活をスタートさせるとどうなるでしょう?
例えば新しい趣味を持とうと、音楽とか絵画とかの教室に通うとします。教室と自分との間には、授業料を支払うという「権利と義務」の関係がありますが、その周りにいる他の生徒さんたちはどうでしょう?
何十年も専業主婦をやってきて世間知らず丸出しのおばさんも、自分の子供ほどの歳のお嬢さんも、自分と対して歳の変わらないリタイアの先輩紳士も、皆あなたとの人間関係は「対等」で「任意」です。
つまり、彼らにとって、あなたがお付き合いして楽しい人であれば、あなたと「生徒仲間」としてお付き合いしでくれるでしょうし、「何?この人偉そう」、「つまらない」、「気持ち悪い、うざい」と思われてしまえば、お友達になってくれることはないでしょう。
もちろん、世の中にはお人好しの人も居ますから、多少の世間話にはつきあってくれるかもしれませんが、それが相手にとって「いやいや」であれば、長続きしないでしょう。いやがる相手に人間関係を強制すれば、自覚がないまま、あなたはストーカーになってしまうでしょう。
「バザール」の世界では、相手側にあなたの両方に、人間関係を持ちたいという意志がなければ、それは成立しないのです。
相手があなたに求めるもの、楽しさ、優しさ、尊敬、あるいは金銭、そういった相手に提供できるものがなければ、人間関係を築くことができないのです。
皆が人間関係を自由に選べる代わりに、相手に対して何を言うか、それに対して相手がどう思うか、それをよく考えて発言する必要があります。
しかしこれに気づかず、会社組織の中にいたときと同じように、他人に偉そうに指示したり、説教したり、あるいは非を咎めて叱責したりすれば、豊かな人間関係を築くのは難しいでしょう。
ずっと仕事中心でやってきた人、特に、不幸なことに高い地位を得てしまった人にとっては、この伽藍からバザールへの頭の切り替えは難しいかもしれません。
できるだけ早いうちから、会社の外の人との関係を「広く、浅く」もって、バザールの世界で生きるすべを身につけておくべきでしょう。
具体的には、
・批判しない。責めない。どうしてもやめて欲しいこと、あるいは、やって欲しいことがあれば、それだけを率直に伝える。(アサーション)
・悪口、陰口を言わない。
・他人のプライベイトに立ち入らない。浅い人間関係に徹する。
こんなところでしょうか。
どれも「当たり前」と言えば当たり前ですが、サラリーマン時代に染みついた癖はなかなか消えません。人間は急には変われません。早いうちから時間をかけてじっくりと、自分を変えていく必要がありそうです。
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