[コラム] 傷つくほど儲かる?―「反脆弱性」について

「反脆弱性」(Antifragility)は、「まぐれ」(Fooled by randomness)や「ブラックスワン」の著者ナシーム・ニコラス・タレブの著作のタイトルです。

その名前の通り、反脆弱性とは脆弱性(脆いこと、fragility)の反対という意味なのですが、堅牢性(丈夫なこと、robustness)とは意味が違います。

脆弱性というのは、予期せぬトラブルや変化から損害・被害を「被りやすい」ことです。投資の世界で言えばレバレッジの高いポジションであったり、日常生活で言えばサラリーマンの雇用からはじまって、コップやお皿と言った身の回りの品物も脆弱なものの例です。

堅牢性というのは、これらのトラブル・変化に対して損害・被害を「被りにくい」ということです。例えば、レバレッジをかけない株式の現物買いやチタン製のコップは堅牢性を持っているといえます。

「反脆弱性」とは、この堅牢性とは違い、トラブルや変化から「利益」を得るもののことを指します。本書の重要なポイントです。

一番わかりやすい例が、機械などの「非生物」と我々人間を含めた「生物」の比較です。

外部からのストレスに対して機械は壊れるか(脆弱)、よくても壊れずに現状維持するか(堅牢)なのに対して、生物は適度なストレス(運動など)を与えることによって自身を強化することができます(反脆弱)。本書では前者を「非複雑系」、後者を「複雑系」とも呼んでいます。

金融の世界で言えば、オプションを買うことが反脆弱なものに当たります。また、生命保険や損害保険に加入するのも、(損を被った後に保険金を受け取るという意味で)反脆弱です。

もっとも、金融商品としてのオプションは、証券会社が儲かるように価格が非常に割高に設定されているので勝ち越せる可能性は低いと思います。

しかし、それ以外の身の回りにあふれた「反脆弱性」を身につけることによって、少ないコストで大きな利益を得られるようになると言うのが、本書から学べることです。

具体的に脆弱なものと反脆弱なものの例を挙げていきます。(本書の内容を参考に、我々に身近な例に置き換えています。本書には、国家、医療、科学の分野などに渡ってもっと多彩な事例があげられています。)

脆弱: サラリーマン

特に雇用の流動性がない日本の管理職。会社の都合で解雇されれば、簡単に再就職先も見つからず、今まで安定して得ていた収入を一気に失うことになります。さらに住宅ローンを抱えていたりすると「究極に脆い」(本書)ということになります。

退職金制度も脆いものの一つでしょう。

反脆弱: 職人・資格仕事・自由業・起業家

男性が結婚するなら相手は看護婦が一番という意見をよく聞きます。出産して子育てが終わっても、資格さえ持っていればまた仕事を見つけることができます。

あるいは、ブロガー、ユーチューバーなども、当たる確率は低いですが、かかるコストはわずかで、もしも一発当たれば大きなリターンを得られます。「炎上商法」のように意図的にブラックスワンを引き起こすケースもあります。

シリコンバレーや深センが起業家を呼び込むのは、何度でも失敗を許す風土があるからです。

ここまでの例は、「伽藍とバザール」の比較にも似ていますね。(組織に属して権威・権限をより所にするのか、あるいは、自由な取引をより所にするのか)

脆弱: 高配当・安定銘柄への集中投資

東電の事例をあげれば十分でしょう。3.11の時に東電の株を持っていた人は、極力リスクをとらずに安定したリターンを得たいと思っていたはずです。

本書にも「後退することもなく、ずっと安定して成長を続けている企業は、非常に脆弱になる」と書かれています。

他にも、以前ご紹介した私がFXのスワップ狙いで大損した事例も例としてあげおきます。

反脆弱: 小型・成長株への分散投資

20年前のグーグルやアマゾンに投資していれば、と(ホルダー以外は)誰しも思うことでしょう。

しかし、破綻して消えていった名も知れぬ銘柄もたくさんあります。また、IPOについては「株式投資の未来」にそのリターンは大型安定株に劣ると書かれています。

脆弱: 友情・ビジネス上の人脈

昨日までの「親友」でも、一度の裏切りや利害・意見の対立で絶交してしまうこともあります。

ビジネス上で何十年もお付き合いしていた相手でも、一度信頼を裏切ったり、あるいはビジネス上不要になれば、関係はそれっきりというのはお客相手の仕事をしている人ならわかるでしょう。

反脆弱: 愛情・圧倒的なブランド力

友情に対して愛情は反脆弱です。なぜならば、それは友情のような「信頼関係」に基づいたものではなく、一方の他方に対する興味・関心に基づいているからです。(もちろん、興味・関心が急に薄れることもありますが。)

企業や有名人の圧倒的なブランド力もこれに似ています。

脆弱: 規則

企業や人々の行動を制約する規則も、よからぬ欲望によって簡単に破られてしまいます。

反脆弱: 美徳

これに対して美徳は人々の「内なるもの」に基づきます。こういった美徳は、企業や人自らや他人がピンチに陥ったときに大きな効果を発揮します。(りっぱな美意識を持った企業に投資したいものです。)

脆弱: 中流階級
反脆弱: 貴族、世襲の資産家

身もふたもないですが、事実ですね。

脆弱: 薬の服薬

薬はおおむね効果を発揮してくれますが、所詮人体にはまだまだわかっていないことが多いです。軽い症状やそもそも病気でないのに健康増進のために服薬することで、万が一の副作用の大きなリスクを負っています。

反脆弱

タバコや炭水化物など身体に悪いものを「摂るのをやめる」ことは、逆にノーコストで大きなリターンを得られます。(アルコールも、かな?)

脆弱: 公債
反脆弱: 転換社債

説明不要ですね。

脆弱: 雇われ社長が経営する企業

ほとんどの大企業がこれに当たります。

これらの企業は、「エージェント問題」、つまり経営を託された雇われ経営者が、会社の利益と自分の利益が相反する事態に面したときに、自分の利益を優先してしまうという問題を抱えています。

社外には知られていない不祥事を認知した時、これらの雇われ社長がどのように振る舞うか株主としては気になるところでしょう。

反脆弱: オーナー社長が経営する企業

オーナー社長にとっては自らの利益と株主の利益がおおむね一致しますので、経営を揺るがすような大事態に面しても、必死になってこれを切り抜けようとしてくれるでしょう。

ただし、例えば自分に対して大量の第三者割り当てをして株主を裏切るオーナー社長もいますけど。

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以上脆弱性と反脆弱性の事例を上げてみました。

しかし、反脆弱性だけを身につけても、変化のない安定時には豊かに生きていくことが困難です。狙ったとおりの変化が起きれば大きなリターンを得られますが、変化のない(ボラティリティーの低い)期間が長引けば、じり貧になるだけです。

安定期に着実にリターンを得られる仕組みを作りつつ、反脆弱な要素も取り入れておくというのが理想です。

本書では、これを「バーベル戦略」と呼んでいます。真ん中がへこんでいて、両側が膨らんでいるということです。極めて安定的なところに資源の大部分を投資し、極めて反脆弱なところに残りを投資するということです。(真ん中の中途半端なところには投資しない。)

例えばサラリーマンの職を得たのなら、クビにならないようにちゃんとまじめに働いて、もらったお給料を無駄遣いせず貯蓄して、かつ、安定してキャッシュを稼ぐ企業への投資をし、安定して収入が得られるようにする。ここまでは、「長期投資家」の方はちゃんと実践されていると思います。

一方で、少額でもベンチャーへの投資をしたり、自ら副業として起業を目指したり、ブログを書いたりする。いろいろな遊びに手を出したり、いろいろなジャンルの本を読んでみる。そうやって、自分の世界を浅く広く展開しておくことも必要と言うことでしょう。

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本書の全体を通じて何度も主張されているのは、「予想もしない事象」が起こる確率、リスクを見積もることは不可能ですし無意味ということです。しかし、それが起きたときに損をするのか(脆いのか)、あるいは特をするのか(反脆いのか)はあらかじめ知ることができるし、知っておくべきです。

最後に、本書の中で一番心に残った言葉をあげておきます。

「自由を持たない者を信用しないこと。」

サラリーマンにせよ、公務員にせよ、上に命じられれば自分を突き通すことができない者を信用してはならないと言うことです。

私も投資で経済的な自立を手に入れ、「信用に足る」人物になりたいと思います。

 

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