現在の中国に対する見方といえば、ほんの数か月前までは、「開放政策によって経済を急速に拡大させ、一帯一路でユーラシア大陸からアフリカにかけての地域のリーダーとなるべく、長期的なビジョンに基づいて淡々と戦略を実行している。21世紀は中国の世紀だ」というような論調が主流だったと思います。
しかし、トランプ政権がしかけた貿易紛争が激化するにともない、「通貨と先端技術で派遣を握ろうとする中国を、米国がいよいよ本気でつぶしにかかっている。これまで中国で生産していた各国企業も中国から逃げ出し、中国は衰退に向かう」という論調が多くなってきましたね。
今日の日経新聞にもわかりやすくまとめた記事が載っています。
FINANCAIL TIMES 中国は今こそ自省を (チーフ・ポリティカル・コメンテーター フィリップ・スティーブンズ)
これまで着々と力をつけていく中国を、心の中ではよく思っていなかったものの、その恩恵にあずかるために我慢しておもねるしかなかった西洋の人々や企業が、ここぞとばかりに中国叩きを始めている、というわけです。
論調というよりは、事実なのでしょう。
この先本当に中国が衰退してしまうのかどうか、私には判断できません。
しかし、過去に同じようなことがあったことを思い出します。
ジャレド・ダイヤモンドさんが書かれた「銃・病原菌・鉄」という本があります。
これまでの人類史において、なぜ地球上の他の地域ではなく、ヨーロッパが最終的に覇権を握ったのかという理由について、非常に面白く書かれています。
文明が生まれるためには、その日暮らしの採取・狩猟生活から脱して、農業を始めることにより、「食べるために働かなくてよい人々(階層)」が生まれることが、必須条件でした。
そして、その農業に適した条件に、栽培しやすい植物や家畜化しやすい動物の存在に加えて、「東西に広い大陸」という地理的条件が必要だったと主張されています。
世界地図を見るとわかりますが、北南米大陸やアフリカ大陸は「南北」に長く、一方でその西端に西洋文明を生んだユーラシア大陸は「東西」に長くなっています。
なぜ南北ではなく東西に長いことが重要かというと、ある地域で発達した農業技術は同じような緯度でないと伝播しにくいからです。
マヤ文明などで発達したトウモロコシ栽培の技術も、そこから地域を広げて南北に移動しようとすると、気候が変わりうまくいきません。
一方で、中東地域で始まった小麦栽培や東南アジアで始まった米栽培は、同じような緯度を東西に移動して、ユーラシア大陸全体に広がっていきました。
で、一番大事なポイントは、そのユーラシア大陸の両端で発展した西洋文明と中国文明のうち、なぜ西洋文明だけが世界の覇権を握り、中国はその後の西洋列強に踏みにじられるままになったかという理由です。
西洋は、停滞した長い中世の後、15世紀にはじまった大航海時代をきっかけに大きく発展しました。
実は同じころ中国もアフリカまで到達できるような造船技術や航海技術を持っていたのだそうです。しかし、当時権力を握った政権によって、海外渡航が禁止され、造船所も解体されてしまったのです。(政権内の権力闘争によるものだったようです。)
この時の西洋と中国の違いのポイントは、西洋ではスペイン、ポルトガルをはじめ多くの国々が競って大航海を後押ししたのに対して、中国では一極集中の政権による判断で、海外進出をあきらめてしまったことです。
なんか、なんか今の中国政権とイメージが被ってきませんか?
テンセントやアリババのような超優良企業も、中国政権(共産党)の「鶴の一声」で息の根を止められるリスクを抱えています。(本当にそんなことが起こるかどうかはわかりませんが。)
グーグルやアマゾンも、税金や個人情報保護の面で世界中の政府を敵に回しているようなところがありますが、それでもどこか一国の政府の気まぐれで息の根を止められるなんてことはないでしょう。
ただ一方で、独裁政権だからこそうまくいくこともあるでしょう。たとえば、EVの推進や、(倫理をちょっと無視した)バイオテクノロジーの開発などは、欧米諸国よりも中国に分がありそうです。
いろいろと書きましたが、結論として、今後中国が衰退していくかどうかは判断つきません。予想はできるでしょう。でも当たるかどうかわかりません。あるいは専門家の人たちの意見に耳を貸すことができます。でも、その意見通りにならなかったからといって責任は取ってくれませんよね。
わからないものには手を出さないのは、投資の大原則です。というわけで、着々と中国から米国への持ち株のシフトを続けていきます。
しかし、仮に中国という国家が転覆しても、豊かになろうとする意欲に燃えた中国の人々の勢いが止まることはないでしょう。(国が存亡の危機に陥ると自分までも死ななければ思う日本人とは違い、何度も政府が入れ替わってきた中国の人にしてみれば、国が滅びたって屁でもないでしょう。)
ですので、中国関連株を全部手放すこともないと思います。自分が許容できるリスクの範囲で保有していきたいと思います。