長沼伸一郎さんの著書「現代経済学の直感的方法」を読んでいます。
私のような経済の素人にもわかりやすい文章で書かれているので、その気になって読み進めれば一日で読了できそうです。しかし、そうすると読んだことが右から左に流れて頭の中に残らないので、1章づつ読んでは反芻してを繰り返しています。
第2章「農業経済はなぜ敗退するのか」に、産業における「機動力」という言葉が出てきます。この場合の機動力は英語でいえばmobilityに該当するでしょうか。
農業が、工業や商業に対してそれほど発展しない理由は、農産物の需要がそれほど急速には増加しないことや、一方で生産性向上により供給は少しづつ増えることによる需給バランスの長期的な悪化が挙げられています。
しかし、それに加えて重要な理由として、農業には「機動力」がないことが挙げられています。つまり、現在生産している農産物の価格が低迷しても、急に作るものを変えられないということです。例えば、ミカン農家が急に他の作物に転換しようとしてもむずかしいでしょう。
(そういえば、昔中国株で超大現代農業やチャイナグリーンなどの農業銘柄を保有していましたが、業績低迷で大きな損を負いました。農業銘柄に手を出したこと自体が間違いだったとも言えますね。)
一方で、工業では、需要の大きな製品には競合が殺到してあっという間に価格競争に陥るものの、生産者はその製品にこだわる必要はなく、新しい需要を満たす新たな製品に切り替えることができます。
機動力がない産業としては、農業だけでなく、各種資源といった一次産品を生産する産業もあげられます。南米やアフリカの資源国がなかなか発展できないのも、ひとつの生産物に依存しているためにその価格が低迷しても他の産業に乗り換えられないことが理由です。
ここまでが本書に書かれていること。
この「機動力」って、産業の世界だけではなく、我々が個人として生きていくうえでも、とても大事なことなのだと思います。
まず個人投資家として。
機動力がない投資先といえば、不動産投資が挙げられます。特にコロナ禍の現状では、入居者や入居テナントが家賃を払えなくなり滞納されたり、政府の「要請」圧力によって家賃を値下げしたり免除したりを求められるかもしれません。コロナ禍がなくとも、物件のロケーションの人気がなくなったり、あるいは大規模な災害があった場合には、収入減や資産価値の棄損が発生するでしょう。
機動力がある投資先といえば、まずは株式でしょうし、不動産を持つにしてもREITという手段があります。もちろん、今回のコロナ禍によるような暴落時に、速やかに逃げることは難しいです。ある程度の損失は避けられないでしょう。しかし、この先希望が持てないと判断した銘柄であれば、価格さえ割り切れば、基本的には市場で売却できるはずです。(昔のJALみたいにいきなり破綻した場合でも、その兆候を察知して売却を判断する時間は十分あったはずです。3.11の東電は逃げられなかったでしょうけれど。)
保有する銘柄は、いずれもこの先5年、10年と長期で保有するつもりでいます。しかしそれは、「企業の優位性が保たれている」という前提があってこそです。優位性が崩れると認められた時に、即座に売却できることが重要です。(そういう意味では、投資家自身の判断にも「機動力」が求められますね。私自身は、愚図な方だと思っています。)
投資だけではなく、人生の様々な局面において、機動力を持つことによって生き残る力を得ることができます。
日本のサラリーマンの場合、(実際にそうかどうかは別として)定年まで雇ってもらえるつもりで働いている人がほとんどだと思います。市場の流動性の低い日本で一度職を失えば、同程度の収入を得ることはほどんど無理でしょう。特に私のような中高年の場合は。
一方で、看護師などの資格を持った人であれば、一度職を離れても、比較的簡単に職に復帰することができるでしょう。(男性にとっては「結婚するなら看護婦がいい」といわれますね。子育てを終えてから簡単に現場復帰して、再び高収入をえられるので。)
住居にしても、クオリティーやステータスという点では持ち家の方がよいのでしょうが、機動力という点ではだんぜん賃貸の方がよいです。私は一生持ち家を持つことはないと思います。「何が起こってもその場所から引っ越すことができない」というリスクを負いたくないためです。
台風や地震などの災害時に、体育館などの避難所での生活を強いられる方々のニュースが報道されますが、おそらくほとんどの方が持ち家に住めなくなったためだと思います。もし賃貸であれば、とっとと安全な場所に引っ越せばよいだけです。もちろん、仕事の関係や金銭的な都合でそうできない方もいらっしゃるのでしょうが。
変化がますます早くなっていく世の中において、様々な側面で機動力を持つことの重要性はますます高くなってくるでしょう。
投資と人生は自己責任で。
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