投資には直接関係ない本ですが、われわれが投資活動を繰り広げる世の中そのものが、今後どうなっていくのかという疑問に関わる本を紹介します。
この本は、人類のこれまでの進化と進歩の歴史を非常に客観的な視点で描き、ベストセラーとなった「サピエンス全史」の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏による、サピエンス全史の続編ともいえる本です。
まだ邦訳が出版されていないので、非常に時間がかかりましたが、がんばって原書を読んでみました。
※ 邦訳版出ました。
前半は主に人類(ホモ・サピエンス)の本質について述べられており、サピエンス全史の復習といった感じです。(ですので、サピエンス全史を読んでいない読者でもこの本はすんなり読めると思います。)
後半あたりから、AI、ロボット、サイボーグ(義体化)などの「人類を超越する存在」の出現が、人類にどのような影響を及ぼすかが述べられます。
人類の職業がこれらの「超越するもの」によってどんどん奪われていき、21世紀には経済的に全く価値を持たない大量の「非労働階級」が出現すると予想しています。この辺りは、他のAIものの本と同じような内容です。
この本の話が面白いのは、このような「人類を超越した存在」にとっては、すべてが「データ」として扱われるようになるという点です。このような考え方を”Data Religion”(データ教?)と呼んでいます。
データ教
データ教にとってみれば、ベートーベン第5交響曲も、株式市場のバブルも、ウィルスも同じ概念とツールで解析できるデータにすぎません。
データ教にとっては、よりデータをシェアにすること自体に価値があります。悩みがある時に、それを自分しか読まない日記に書いたり、夕日を眺めて一人で悩むよりは、自分の体験すべてをクラウドにアップして、AIに判断してもらうことが合理的になります。
例えば、「投票」という行為をとってみても、人類は「心理的バイアス」により必ずしも自分に最適な判断(候補者選び)をすることはできませんが、やがてAIがあなた自身よりもあなたをよく知るようになれば、AIに投票を任せたほうが「合理的」になります。(心理的バイアスについては、ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」が詳しいです。余裕があれば追って紹介させていただきます。)
分散処理と集中処理
すべてをデータフローとして考えるにあたって、面白いたとえをしています。
それは、「資本主義」はデータを様々なポイントで分散して扱う「分散処理」であり、「共産主義」はデータを1点の権力で処理する「集中処理」であるという例えです。(旧ソ連の幹部が並んで座っている写真に「集中処理」とタイトルがついているのは、ちょっとクスッと笑ってしまいます。)
そして、資本主義が共産主義に勝てたのは、他でもなくボトルネックのない分散処理が優れていたからだと主張しています。
大量のデータを大量のデータのまま処理する
AIによるデータ処理についてもう一つ興味のあることは、「大量のデータを大量のデータのまま処理できる」ということです。
人間の頭脳は大量のデータを扱うことができないため、データを情報に、情報を知識に、そして知識を知恵に抽出して、意思決定を下しています。
しかし、膨大なデータを扱えるAIにとっては、そのような抽象化は必要ではなく、大量のデータをそのまま扱い意思決定することができます。(そして、人類にとってAIがどのようなプロセスで意思決定をしているのかがますますわからなくなっていく。)
“Internet-of-All-Things (IoAT)”
21世紀になりデータの量やスピードが急増したため、分散処理による民主主義もうまく働かなくなりました。では、その答えは集中処理の独裁主義に戻れということかというとそうではなく、世の中のすべてのデータが結びつく”Internet-of-All-Things (IoAT)”を作り出すことがその答えだとしています。
そして、人類のミッションはこのIoATを作り出すことであり、それが達成してしまえば人類は消滅してもよいのだと。
有機体でできた人類ではなく、機械でうごくIoATであれば、地球を離れて遠く宇宙に展開することもでき、たとえ太陽の高齢化に伴い太陽系に生命が住めなくなっても、IoATは生き残ることができます。
最後に
以上、われわれホモサピエンスにとってはお先真っ暗の話なのですが、著者は最後に3つの問いかけをして本書を締めくくっています。
- 人類やその他の動物を構成する有機体は、本当にただのアルゴリズムなのか?生命は本当にただのデータ処理なのか?
- AIが人類に超越する「知性」と、人類のみが持つ「意識(魂)」の、どちらにより価値があるのか?
- AIあるいはIoATがわれわれ以上にわれわれについてよく知るようになった時に、社会、政治、日常の生活に何が起こるのか?
以上、投資にはほとんど関係ない話でした・・・。
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